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後藤さん(仮名)は、相続した実家をめぐって、弟2人と対立しています。同居していた母親が半年前に亡くなり、家と600万円の預金が残されました。相続人は、兄弟3人。預金は3分の1ずつ分けることで合意したのですが、問題は、後藤さんが母親と同居していた家です。
3年前に父親が他界したとき、預金を母親が相続し、父名義だった家を兄弟3人が共有で相続しました。持分は、後藤さんが2分の1、弟2人が4分の1ずつです。
今回の協議で、弟2人が家を売って代金を分けるよう求めてきたのです。しかし、実家に住み続けるつもりの後藤さんは売却に同意できません。どんな対応方法があるのでしょうか?
不動産は現預金と違って分けるのが難しいため、実家を相続する際に、ひとまず法定相続人が共有で引き継ぐ、というケースが少なくありません。しかし、これがトラブルのもと。後藤さんのように、後々、持分の現金化をめぐって対立することが、よくあるのです。
では、共有で相続した実家の共有を解消するには、どうすればいいのか?
各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができます(民法256条1項)。共有者から共有物の分割について請求があった場合、他の共有者は、その協議に応じなければなりません。
ただし、5年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をしている場合は除きます(民法256条1項ただし書き)。
共有を解消するには、次のような3つの方法があります。
どの方法で共有を解消するかは、共有物や共有者の状況などによりますが、それぞれ次のような点に注意してください。
現物分割は、物件が1つだけの場合には物理的に分けることができないので困難です。代償分割をするには、物件を取得する人が一定の資金を用意することが必要です。換価分割は、家に住み続ける人がいる場合は困難です。
現物分割、代償分割、換価分割の内容・注意点について、まとめておきます。
分け方 | 内容 | 注意点 |
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現物分割 | 共有物を共有持分割合に応じて物理的に分ける方法 |
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代償分割 | 共有物を取得する人が、他の共有者に代償金を支払う方法 |
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換価分割 | 共有物を第三者に売却し、売却代金を共有持分割合に応じて共有者で分ける方法 |
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共有物の分割について、共有者の間で協議が調わないとき、または協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができます(民法258条1項)。
裁判による共有物の分割に関し、ぜひ知っておきたいことがあります。それは、2023年4月施行の改正民法に、代償分割が明記されたということです。
これまでも、共有物分割請求訴訟において、裁判所が代償分割の判決を出すことはありましたが、それは判例にもとづくものでした。法律上の根拠がないため、裁判所が代償分割をどう検討するのか、どんな場合に代償分割の判断を示すのか、明らかでなかったのです。
代償分割が法律に明記されたことにより、代償分割の位置づけが明確になったのです。
2023年4月施行の改正民法で、「裁判による共有物の分割」についての規定は、次のように変わりました。
※旧民法の条文は『改訂増補版 口語民法』自由国民社より
旧民法では、裁判による共有物の分割方法として、現物分割と競売分割が挙げられており、裁判所はまず現物分割の可否について検討した上で、現物分割が困難な場合に競売分割を命ずることができるとされていました(旧民法258条2項)。現物分割が基本的な分割方法とされ、補充的に競売による換価分割が位置付けられていたのです。
ただし、裁判では、裁判所の裁量により、分割方法の多様化・弾力化が進み、平成8年には、最高裁が法律に明文規定のない代償分割(=全面的価格賠償分割)を認めました。
こうした中、改正民法では、裁判による共有物分割の方法として、「共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法」すなわち代償分割が、現物分割とともに可能であることを明文化し(民法258条2項)、現物分割・代償分割のいずれもできない場合、または分割によって共有物の価格を著しく減少させるおそれがある場合には、競売分割(換価分割)を行うこととして、共有物の分割方法の検討順序を明確化しました(民法258条3項)。
こうして改正民法の条文において、代償分割(=賠償分割)についての規律が整備されたのです。
かつては、価格賠償による分割(共有物を特定の共有者に帰属させ、この者から他の者に対して持分の価格を賠償させる分割方法)を裁判所が命じることはできない、と考えられていました。裁判所がその裁量により判断するのは、現物分割ができる場合の分割方法についてであって、現物分割をすることができないときには、裁判所は競売分割を命じなければならない、と解されていたのです。
※法務省 法制審議会民法・不動産登記法部会 第7回会議(令和元年9月24日開催) 部会資料10 共有制度の見直し(3)より
共有物の分割方法について、多様化・弾力化が進む契機となったのは、次の2つの最高裁判決です。
最高裁判所大法廷判決( 昭和62年4月22日)は、部分的価格賠償、一括分割、一部分割は、いずれも現物分割の一態様として許されると判示し、共有物の分割方法の多様化・弾力化が図られました。
(最高裁判所Webサイトより)
共有物を共有者のうちの1人の単独所有または数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる全面的価格賠償の方法による分割をすることも許されるとして、価格賠償による分割を認めました。
昭和62年大法廷判決によって認められた他の分割方法と異なり、この全面的価格賠償の方法は,現物分割の一態様として位置付けられたわけではないため、民法に明文のない方法として認められたと解されてきました。
民法258条により共有物の分割をする場合において、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情があるときは、共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法(いわゆる全面的価格賠償の方法)によることも許される。
(最高裁判所Webサイトより)
部分的価格賠償と全面的価格賠償は、どちらも「価格賠償」という文言があり、「部分的」か「全面的」かの違いのように見えますが、両者は法的性質が異なります。
部分的価格賠償は、現物分割の一態様です。共有物(現物)を物理的に分割した上で、持分の価格以上の現物を取得する共有者が、持分の価格を下回る現物しか取得しない他の共有者に、超過分の対価を支払い過不足を調整する方法です。金銭による価格調整を行いますが、前提として現物を分割するため、現物分割に含まれます。
他方、全面的価格賠償とは、文字通り、全面的に金銭の支払いで解決するというものです。共有物を取得する共有者が、持分を手放す他の共有者に対価を支払い、共有を解消する方法です。共有物を取得する共有者は、債務を負担することになります。
共有物の分割方法としては、現物分割、代償分割、換価分割の3つの分割方法があります。
共有者間の話し合いで合意できないときは、裁判所に共有物の分割を請求することができます。共有物の分割を裁判所に請求した場合、当事者は判決に従わなければなりません。換価分割となると、実家を第三者に売却するため、競売を求められます。
後藤さんの場合、共有物分割請求訴訟になると、代償分割が検討されますが、後藤さんが弟2人に代償金を支払えない場合は、競売分割が命じられることが考えられます。
競売となると、売却価格が市場価格を大きく下回るため、売却を求めていた弟たち2人にとっても、当初想定していた金額を得られず、望まない結果となることもあり得ます。判決が当事者全員にとって納得できる内容になるとは限らないのです。
ですから、訴訟になる前に共有者の間で協議を重ね、折り合える点がないか探ることが大切です。改正民法で定められた手順を参考に、まず現物分割や代償分割を検討し、それが難しければ換価分割を検討するのが一案となります。
公開日 2023-11-02 更新日 2023/11/15 10:17:01