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市町村長は、特定空家等の所有者に対し、除却、修繕、立木竹の伐採など必要な措置をとるよう、助言・指導、勧告、命令をすることができます。
空家法(空家等対策の推進に関する特別措置法)では、「助言・指導」⇒「勧告」⇒「命令」という3段階のプロセスを経て、それでも改善されない場合は「代執行」という最終手段を採る仕組みになっています。
特定空家等に対する措置の内容について、詳しく見ていきましょう。
特定空家等と判断されると、その所有者等は、必要な措置を講じるよう、市町村から助言または指導を受けます。この法的性質は行政指導で、これにより所有者等に何らかの義務が生じるわけではありません。
助言と指導の違いは、指導は助言より強く措置の履行を求めることになります。
市町村長は、特定空家等の所有者等に対し、当該特定空家等に関し、除却、修繕、立木竹の伐採その他周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置(そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態にない特定空家等については、建築物の除却を除く。次項において同じ。)をとるよう助言又は指導をすることができる。
助言・指導は、所有者等に対して、特定空家等についての除却、修繕、立木竹の伐採その他周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置を行うことを求めるものです。
本条項の「かっこ書き」に、「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態にない特定空家等については、建築物の除却を除く」とあります。
ここでいう「建築物の除却」とは、「建築物等の全部除却」を意味しています。この「かっこ書き」部分は、次のような意味です。
空家法2条2項は、次の4つの状態のいずれかに該当すると認められる空家等を特定空家と規定しています。
このうち①②の状態にない、すなわち③または④のいずれかに該当する特定空家等につき助言・指導する場合は、建築物等の全部を除却する措置を助言・指導することはできないということです。
③④の場合は、①②の場合に比べて、地域住民の生命・身体・財産への危険性が低く、建築物等の全部除却によらなくても、周辺の生活環境への悪影響を取り除くことは可能です。
そのため、憲法29条の財産権保障とのバランスから、建築物等の全部除却という財産権侵害の程度が最も強力な措置は、必要性・合理性を欠くと考えられることから、除却することはできないとしたようです。
③④に該当する場合、建築物等の全部の除却に係る助言・指導はできませんが、建築物等の一部の除却(例えば、著しく朽廃・汚損した木塀等の除去)に係る助言・指導はできます。また、敷地に繁茂している樹木の伐採や朽ちた看板等の助言・指導も可能です。
逆に言えば、建築物等の全部の除却を助言・指導できるのは、「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態または著しく衛生上有害となるおそれのある状態」の特定空家等だけです。
「その他周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置」とは、例えば、次のようなものです。
助言・指導を受けた特定空家等の状態が改善されない場合には、その特定空家等の所有者等に対し、繰り返し助言または指導を行うか、必要な措置を勧告するか、検討されます。
助言または勧告を行っても特定空家等の状態が改善されない場合、市町村長は、相当の猶予期間を付けて、必要な措置をとるよう勧告することができます。
勧告の法的性質について、国は行政指導と位置付けています。これにより所有者等に何らかの義務が生じるわけではありませんが、地方税法が定める固定資産税の住宅用地特例の適用が除外されるなど、不利益措置を受けることに注意してください。
市町村長は、前項の規定による助言又は指導をした場合において、なお当該特定空家等の状態が改善されないと認めるときは、当該助言又は指導を受けた者に対し、相当の猶予期限を付けて、除却、修繕、立木竹の伐採その他周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置をとることを勧告することができる。
助言・指導の内容が実現されていないことが要件ではなく、特定空家等の状態の改善がないことが要件です。したがって、助言・指導の内容と勧告の内容が同一でないこともあります。
ガイドラインは、「措置の内容は、周辺の生活環境の保全を図るという規制目的を達成するために必要かつ合理的な範囲内のものとしなければならず、例えば改修により目的が達成され得る事案に対し、いたずらに除却の勧告をすることは不適切である」としています。
勧告が助言・指導と異なる点は、「相当の猶予期限」を付けて勧告することです。
「相当の猶予期限」とは、勧告された措置を行い、周辺の生活環境への悪影響を改善するのに通常要すると思われる期間です。具体的には、対象となる特定空家等の規模や措置の内容等によって異なりますが、おおよそ「物件を整理するための期間や工事の施工に要する期間を合計したものを標準とする」とされています。
勧告がされると、固定資産税等の住宅用地特例の適用が除外されます。
修繕など必要な措置が完了し、特定空家等でなくなった場合は、勧告を維持する必要がなくなるので、勧告が撤回され、住宅用地として要件を満たせば改めて住宅用特例の適用を受けられます。
勧告を受けた者が、正当な理由なく勧告された措置をとらなかった場合、特に必要があると認めるときは、相当の猶予期限を付けて、その勧告に係る措置を講じるよう命令することができます。
この命令は行政処分であり、これにより所有者等は、命令に係る措置を行う法律上の義務を負うことになります。
市町村長は、この命令をした場合には、第三者に不測の損害を与えることを未然に防止するため、命令が出ている旨を公示する標識を設置し、市町村の広報誌やホームページ等で公示します(空家法14条11項・12項)。
命令に違反すると、50万円の過料に処されます(空家法16条1項)。
市町村長は、前項の規定による勧告を受けた者が正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかった場合において、特に必要があると認めるときは、その者に対し、相当の猶予期限を付けて、その勧告に係る措置をとることを命ずることができる。
ここでいう「正当な理由」について、ガイドラインは、「所有者等が有する権原を超えた措置を内容とする勧告がなされた場合等を想定」していると記載しています。そして「単に措置を行うために必要な金銭がないことは正当な理由とはならない」としています。
「所有者等が有する権原を超えた措置を内容とする勧告がなされた場合等」とは、次の2つのケースが想定されています。
ガイドラインでは、「特に必要があると認めるとき」とは、「比例原則を確認的に規定したものであり、対応すべき事由がある場合において的確な権限行使を行うことは当然認められる」としています。
そもそも特定空家等とは、そのまま放置すれば著しく保安上危険または著しく衛生上有害となるおそれのある状態で、周辺の生活環境に悪影響を及ぼすものです。助言・指導、勧告が行われたにもかかわらず、何らの改善も見られないような場合には、通常、それだけで必要性を肯定できます。
命令を出すのに、勧告に係る措置がとられなかったことに加え、何か新しい事情が必要というものではありません。この加重要件は、権原発動を抑制する趣旨で設けられたものではないとされています。
むしろ、この必要性については、勧告を行ったけれども、勧告に係る措置がとられなかった場合において、あえて命令を出すまでもなく改善の見込みがある場合(例えば、土地建物が売却され、その結果、特定空家が壊され、新しい建物が建築される予定であることを地方自治体において把握した場合等)には命令を出さなくともよいという、消極的な要件と考えるべき。
命令は、助言・指導、勧告と異なり、不利益処分の性質を持つ行政処分です。
したがって、命令を発するにあたっては、相手(特定空家等の所有者等)に弁明の機会を与える手続きを定めています(空家法14条4項~8項)。
必要な措置を命じても、命じられた者が措置を履行しないとき、履行しても十分でないとき、履行しても命令で定めた期限までに完了する見込みがないときは、市町村長は、行政代執行の規定にもとづき、代執行を行うことができます。
市町村長は、第3項の規定により必要な措置を命じた場合において、その措置を命ぜられた者がその措置を履行しないとき、履行しても十分でないとき又は履行しても同項の期限までに完了する見込みがないときは、行政代執行法の定めるところに従い、自ら義務者のなすべき行為をし、又は第三者をしてこれをさせることができる。
空家法14条9項が規定する代執行を行う際の要件は、命令を発していることのほか、命令を受けた者が措置を履行しないとき、履行しても十分でないとき、履行しても命令の期限までに完了する見込みがないとき、のいずれかに該当することです。
本条項は、行政代執行の要件を定めた行政代執行法2条の特則です。
行政代執行法2条は、行政代執行の要件について、3つ規定しています。
義務の不履行には、履行しても十分でない場合や定められた期限までに完了しない場合も含まれると解されています。
法律により直接に命ぜられ、又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為(他人が代わってなすことのできる行為に限る。)について義務者がこれを履行しない場合、他の手段によってその履行を確保することが困難であり、且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、当該行政庁は、自ら義務者のなすべき行為をなし、又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収することができる。
空家法14条9項では、行政代執行の要件は、義務不履行のみで、行政代執行法2条に規定する補充性・公益性は、要件でなくなっています。
本来、補充性・公益性の要件も含めて判断して代執行すべきところ、特定空家等に対して命令した場合は、義務不履行のみで代執行ができます。
これは、特定空家等と認定し、周辺の生活環境の保全を図るため助言・指導、勧告を経て命令を行うまでの過程で、行政代執行法2条に定める補充性・公益性の要件については、十分検討したうえで判断していると考えられるからです。
そもそも特定空家等とは、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態等にあると認められる状態ですから、命じられた措置が履行されないときは、それ自体著しく公益に反する状況といえます。
したがって、改めて行政代執行法2条の要件に該当するか否かを判断するまでもなく、市町村長が迅速機宜に行政代執行ができるよう明文規定したものです。
代執行に要した費用は、所有者等に対し、費用の額と納期日を定めた納付命令書を送達し、納付命令を行います(行政代執行法5条)。
費用の徴収については、国税滞納処分の例による強制徴収が可能です(行政代執行法6条1項)。
国税滞納処分の例とは、納税の告知、督促、財産の差押え、差押財産の公売等による換価、換価代金の配当の手順です。
略式代執行は、代執行の際にとるべき手続きを一部省略して代執行を行う制度です。
空家法における略式代執行は、措置の命令等を受ける者(特定空家等の所有者等)が不明な場合に、助言・指導⇒勧告⇒命令の3段階のプロセスを経ることなく、代執行を行うことができるとするものです。
第3項の規定により必要な措置を命じようとする場合において、過失がなくてその措置を命ぜられるべき者を確知することができないとき(過失がなくて第1項の助言若しくは指導又は第2項の勧告が行われるべき者を確知することができないため第3項に定める手続により命令を行うことができないときを含む。)は、市町村長は、その者の負担において、その措置を自ら行い、又はその命じた者若しくは委任した者に行わせることができる。この場合においては、相当の期限を定めて、その措置を行うべき旨及びその期限までにその措置を行わないときは、市町村長又はその命じた者若しくは委任した者がその措置を行うべき旨をあらかじめ公告しなければならない。
略式代執行の要件は、「過失がなくてその措置を命ぜられるべき者を確知することができない」ことです。
「過失がなくて」「確知することができない」場合とは、ガイドラインによれば、こうです。
どこまで追跡すれば「過失がなくて」「確知することができない」と言えるかについての定めはありません。
判断にあたっては、特定空家等の所有者等およびその所在につき、市町村が法第10条にもとづき、例えば、住民票・戸籍謄本の情報、不動産登記簿情報、固定資産課税情報などを利用し、法第9条に基づく調査を尽くし、特定空家等が周辺の建築物や通行人等に対し悪影響をもたらすおそれの程度や当該特定空家等による悪影響の程度と危険等の切迫性も踏まえ、必要性を判断することとなります。
略式代執行は、行政代執行法の規定によらないものであることから、代執行に要した費用を強制徴収することはできません。
所有者等が後で判明したときは、その時点で、その者から代執行に要した費用を徴収することができますが、義務者が任意に費用支払をしない場合、市町村は民事訴訟を提起し、裁判所による給付判決を債務名義として、民事執行法に基づく強制執行に訴えることとなります。
特定空家等に対する措置の流れは、こうです。
実家を相続して空き家のまま放置している場合は、特定空家と認定される前に、売却するなり、利活用するなり、早めの対応をおすすめします。
まずは、「今の価値がどれくらいあるか?」から調べてみましょう。売却するか活用するかは、その結果をふまえて検討する方が判断しやすく、後悔することもありません。
\ いま売ったらいくら? /
公開日 2021-08-17 更新日 2023/10/27 13:08:22